睡眠時無呼吸症候群(SAS)
当院で検査・治療を行っている睡眠時無呼吸症候群について、解説をしていきます。
睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群(SAS: Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に、呼吸が一時的に停止もしくは少なくなる病気です。適切な治療を行わないと、健康に重大な影響を及ぼす可能性があります。
以下のいづれかを満たすと睡眠時無呼吸の可能性が高くなります。
①一晩に、10秒以上の無呼吸が30回以上
②1時間の睡眠あたり、無呼吸数や低呼吸数(AHI)が5回以上
睡眠時無呼吸症候群の重症度を判断する指標として、無呼吸低呼吸指数(Apnea Hypopnea Index:AHI)を使用します。
AHI:5〜15回が軽症、30回以上が重症、15〜30回が中等症、5〜15回が軽症
あなたは睡眠時無呼吸症候群ですか?(セルフチェック:ESS)
以下の8つの質問に、眠り程度(4段階)をお答えいただき、それぞれ点数をつけてください。
合計点数が11点以上だと睡眠時無呼吸症候群の疑いが強いと考えられます
決して眠くならない ・・・・0点
まれに眠くなることがある ・・・・1点
時々眠くなる ・・・・2点
眠くなることが多い ・・・・3点
- 座って読書をしているとき
- テレビを見ているとき
- 人がたくさんいる場所で座って何もしていないとき(例えば会議中や映画を見ているときなど)
- 車に乗せてもらっているとき(1時間くらい)
- 午後、横になって休憩しているとき
- 座って誰かと話しているとき
- 昼食後静かに座っているとき
- 運転中、渋滞や信号待ちで止まっているとき
どんな症状があるの?
以下の症状は、無呼吸症候群の症状かもしれません
・だるさ(倦怠感)、疲労感がある
・いつも疲労感がある
・寝ているのに、日中も眠い
・頭痛がある
・いびきがある
・呼吸が止まっている時がある
・就寝中に何度も目が覚める、トイレに行く(夜間頻尿)
睡眠時無呼吸症候群を放置するとどうなる?
睡眠時無呼吸症候群はいびきをかいていると思われがちですが、放置すると危険と言われている理由はなんでしょうか?
①高血圧症・心臓病
睡眠中に繰り返される無呼吸状態により、体は酸素不足になります。酸素不足は体に想像している以上の負荷をかけるため、自律神経が緊張し、血圧が上昇します。高血圧の状態が続くと、心臓への負担も増加するため、心筋梗塞・狭心症・心不全といった心臓疾患になる可能性が高まります。睡眠時無呼吸症候群の患者では、高血圧や心血管疾患の発症率が通常よりも高いことが知られています。
②脳血管疾患(脳梗塞・脳出血)
睡眠中の無呼吸による酸素が低い状態は、脳にも悪い影響を与えます。体が酸素不足になると、血液がドロドロになるため、脳梗塞、脳出血といった脳卒中になる可能性が高くなります。
睡眠時無呼吸症候群の重症度が高いほど、脳血管障害を起こす可能性は高いです。
③糖尿病
実は、睡眠時無呼吸症候群と糖尿病は関係ないように思われがちですが、実は深い関係があります。睡眠中の無呼吸により、体の代謝機能が乱れ、インスリン抵抗性が高まるとされています。インスリン抵抗性が高まると、インスリンの効果が効きにくくなり、糖代謝が悪化し、2型糖尿病になる可能性が増加します。
研究でも、睡眠時無呼吸症候群の患者は、糖尿病を合併している割合が、睡眠時無呼吸症候群がない人に比べて高いことが報告されています。
④昼間の眠気
睡眠中の無呼吸は、深い眠りにつくことを妨げ、睡眠の質が大幅に下がります。その結果、人間に必要な十分な休養がとれず、日中に強い眠気、気だるさ・疲労感を起こすことがあります。昼間に眠気があると、仕事や勉強での集中力低下、作業効率の低下につながります。ときには、うつ症状や、気力が低下する症状がでることもあります。
⑤交通事故のリスク(居眠り運転)
睡眠時無呼吸症候群によって体に十分な睡眠が取れないと、日中に眠気が出現し、運転中の居眠りを起こしていまう可能性が高まります。運転中の居眠りは、交通事故や作業中の労働災害につながる重大な問題です。
睡眠時無呼吸症候群の患者は、居眠り運転による事故率が一般のドライバーよりも高いという研究結果もあるため、タクシー会社やバス会社では、睡眠時無呼吸症候群の検査を推奨している企業もあります。
⑥メタボリックシンドローム、認知症
無呼吸に伴う酸素不足や酸素低下による体のストレスは、メタボリックシンドロームのリスクも高めます。
また、長期にわたる睡眠時無呼吸症候群の放置は、認知症のリスクにも関連すると言われています。無呼吸による酸素低下が、脳機能の低下につながるリスクがあります。
⑦精神的な問題
睡眠不足や睡眠の質の低下が続くと、日中にうまく行動がすることができず、気分の落ち込み・イライラ・不安などの精神的な症状が現れやすくなります。さらに、そのまま放置し続けると、うつ病のリスクも高まることも問題とされています。
⑧死亡率
睡眠時無呼吸症候群の患者生存率を比較した研究では、中等度以上の睡眠時無呼吸症候群患者(AHI 20 以上)の生存率はとても低いことが判明しました。未治療の方は、5年後には1割の方、8年後には3割以上の方が亡くなっていました。(Mortality and apnea index in obstructive sleep apnea : experience in 385 male patients. Chest 1988, 94: 9-14etc.)
いびきをかく人は、睡眠時無呼吸症候群なのか?
睡眠中に「いびき」をかくことは誰にでも起こる現象です。しかし、いびきが習慣的に毎日継続している場合、「いびき」は睡眠時無呼吸症候群(SAS)のリスクを示すサインかもしれません。
①いびきとは?
いびきは、睡眠時に、空気の通り道である上気道(鼻から気管支までの空気の通り道)が狭くなり、空気が通過する際に、気道の粘膜などが振動して生じる音です。上気道の中でも特に軟口蓋が振動しやすく、ほとんどのいびきはこの部分が原因で発生します。
よって、睡眠時無呼吸症候群の方でなくても、仰向けで寝ていると重力の影響で舌や軟口蓋が落ち込み、睡眠時には筋肉が弛緩するため気道が狭くなります。このため、普段いびきをかかない人でも、風邪を引いたり、お酒を飲んでいたり、日中の疲れによっても、筋肉の弛緩が大きくなり、いびきをかくことがあります。
②慢性的ないびきと睡眠時無呼吸症候群の危険性
すべてのいびきが睡眠時無呼吸症候群に関連しているわけではありません。しかし、慢性的にいびきをかいている人はSASの予備軍である可能性が高いと考えられます。
慢性的ないびきをかく人の多くは、肥満、筋力の低下、顔の形態的な問題(顎の後退、扁桃肥大、軟口蓋の長さなど)によって常に上気道が狭くなっています。これが悪化すると、上気道が完全に塞がり、呼吸が止まる、すなわち睡眠時無呼吸症候群の状態に陥ることがあります。
危険ないびきの特徴
以下の特徴があるいびきがあるひとは、睡眠時無呼吸症候群と関係しているかもしれません。
●仰向けで寝ると大きくなるいびき
仰向けの姿勢では重力により舌や軟口蓋が気道に落ち込みやすく、上気道が狭くなります。これが強い場合、睡眠時無呼吸症候群かもしれません。
●強弱のあるいびき
いびきが途切れたり強弱がある場合、睡眠中に一時的に気道が閉塞して無呼吸になっているかもしれません。
●朝まで続くいびき
寝入りばなだけでなく、朝までずっといびきが続く場合、気道が慢性的に狭くなっている可能性が高いです。
●最近のいびき変化
最近になって急にいびきが大きくなったり、音質が変わった場合、気道の閉塞が悪化しているかもしれません。
自分ではきずきにくい 「いびき」
いびきは、睡眠中の症状であるため、自分では気付くことがとても難しいです。家族やパートナーが同じ寝室にいる方は、いびきの様子を確認してもらうことが重要です。いびきが急に大きくなったり、呼吸が止まるような様子があれば、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群のタイプ
睡眠時無呼吸症候群のタイプは、閉塞型睡眠時無呼吸症候群、中枢性睡眠時無呼吸症候群、混合型睡眠時無呼吸症候群の3つに分けられます。
①閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS:Obstructive Sleep Apnea Syndrome)
OSASは、物理的に気道の通り道が狭くなった事により、無呼吸になってしまうことを指します。原因しては、肥満によって気道の周りに脂肪がついている、扁桃が大きい、咽頭付近の筋肉のたるみ、顎が小さい等によって気道が狭くなることが考えられます。日本人では、男女ともに全人口の5%程度はいると言われています。
②中枢性睡眠時無呼吸症候群 (CSAS:Central Sleep Apnea Syndrome)
脳や神経などの呼吸中枢の異常によって、呼吸の指令が届かず、無呼吸が生じます。指令が出ていないだけなので、気道は開通しています。原因は様々ですが、心臓機能が低下した方に中枢型の無呼吸が見られる場合があるとされています。(睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン)
③混合型睡眠時無呼吸症候群
閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)と中枢性睡眠時無呼吸症候群 (CSAS)が両方あるタイプです
睡眠時無呼吸症候群の検査方法(簡易PSG検査)
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断には、さまざまな検査が使用されますが、忙しい患者さんや症状が軽度の場合、負担の少ない検査が必要とされています。その中で、簡易PEG検査は、SASのスクリーニングや気道閉塞の簡易評価に適した方法として広く利用されています。
簡易PEG検査とは?
簡易PEG検査(咽頭内圧検査、Pharyngeal Pressure Measurement)は、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング検査の一つで、主に睡眠中の上気道の閉塞度を簡易的に評価するための検査です。通常のPEG(咽頭内圧測定)検査がより詳細で精密な評価を目的とするのに対し、簡易PEG検査は短時間かつ簡便に気道の状態を把握できることが特徴です。
この検査では、口元に装着するセンサーを用いて、呼吸のパターンや気道の通りを測定します。検査の負担が少ないため、SASが疑われる多くの患者さんに実施されています。
簡易PEG検査のやり方
①マスクによるセンサーの装着:検査マスクを装着していただきます。測定機器は、マスクに付いている口元に装着するセンサーです。これらは呼吸のパターンや気道内の圧力を計測するためのものです。
②睡眠中の計測:検査機器を装着した状態で、患者さんは仰向けになってリラックスし、睡眠していただきます。機器は睡眠中の気道の状態を記録します。
③データの解析:翌朝には計測が終わりますので、検査機器をご返却いただき、記録されたデータから、気道の圧力変動や閉塞の有無を評価します。この結果に基づいて、SASのリスクが高いかどうかを判断します。
簡易PEG検査の注意点
簡易PEG検査は簡易的なスクリーニングであり、精密な評価が必要な場合や治療方針の決定には、ポリソムノグラフィー(精密PSG)などの精密検査が必要です。
実際の診察から検査の流れ
睡眠時無呼吸症候群の検査は以前は、病院で入院をしながらの検査が当たり前でした。しかし、当院では、ご自宅に検査機器をご郵送し、ご自宅で検査ができ、ご自宅で治療を開始できる機器を導入しております。
動画を見ながら、検査をおこなうので、どんな方でも簡単に行うことが出来ます。
- 当院にて、睡眠に関する問診票(エプワース眠気尺度:ESS)をご記入ください
- 問診票を元に、医師が診察を行い、睡眠時無呼吸の検査を行うかご相談をいたします。
- 検査を行う場合、検査機器をご自宅に郵送する手続きをします。
- 1週間程度でご自宅に検査機器が到着します。検査機器に同封されている説明に従い、一晩検査を行ってください。
- 検査終了後に、検査機器をご郵送いただき、結果の解析を行います。
- 機器返送後一週間以降に、クリニックにご来院いただき結果説明をおこないます。
検査費用
当院では、入院をせずに、ご自宅で手軽に検査を行っていたただきます(入院をすると、泊まりが必要であり、検査のため、個室代金もかかるため、検査代が高額になります)。
ご自宅で検査ができることで、入院で検査するよりも患者様の検査費用が大幅に軽減でき、入院する時間が無い人でもご自宅で検査ができるというメリットがあります。
●検査費用
3割負担の方・・・約3900円
2割負担の方・・・約2600円
1割負担の方・・・約1300円
睡眠時無呼吸症候群の治療
睡眠時無呼吸の治療方法としては、CPAPという酸素を夜間に吸う方法があります。そのほかには、肥満などによって物理的に気道が圧迫されているような方では、生活習慣の改善を促します。
①生活習慣の改善
過体重や肥満は、脂肪によって喉が圧迫され上気道の閉塞を引き起こす可能性があります。体重を減らすことで睡眠時無呼吸の症状が緩和されることがあるため、運動習慣や食生活の見直しをしましょう。
舌が大きい方は、仰向けで睡眠をとると舌が気道を閉塞させていることがあります。その場合は、横向きで睡眠をとるようにしましょう。
アルコールや睡眠薬は、首の筋肉が緩みやすく、気道の閉塞を起こす場合があるため、睡眠薬の過度使用の中止や禁酒をしましょう。
②CPAP(連続陽圧呼吸器)
CPAP療法(Continuous Positive Airway Pressure)とは、中等度から重度の睡眠時無呼吸症候群の治療法です。鼻や口にマスクを付け、空気を供給し、気道を広げて、閉塞を防ぐ装置です。気道が開くことによって、無呼吸の回数が減少し、しっかりとした睡眠に繋がり、酸素不足を解消します。
開始当初は、マスクをしながら睡眠を取ることに抵抗がある方が多いですが、装着を繰り返していると慣れてきて通常通り寝れる方が多いです。うまくマスクをつけられると、いびきや無呼吸は解消されます。
治療には、毎月5000円程度かかります(保険診療)。
③マウスピース(口腔内装置)療法
軽度から中等度の睡眠時無呼吸症候群、CPAPに抵抗がある患者さんに適した治療法です。
就寝時にマウスピースを装着し、下顎を前方に保持することで気道を広げ、舌の後退を防ぎ、、無呼吸やいびきを軽減します。
装置が合わない場合、顎関節への負担や歯並びへの影響が出ることがあるため、マウスピース作成に関しては、歯医者さんによる調整が必要になります。