最近、物忘れが増えた、集中力が続かない、以前より判断に時間がかかる。
このような症状があると、「年齢のせいかもしれない」「認知症が進んでしまったのではないか」と心配になる方もいるかもしれません。
記憶力の低下や判断力の低下には、さまざまな原因があります:
- 睡眠不足
- ストレス
- 年齢
- 薬
- 脳血管障害
- 認知症
こうした色々な要素によって、記憶力や判断力の低下が発生します。
そして意外に見落とされやすいのが「睡眠時無呼吸症候群」です。睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に呼吸が止まったり浅くなったりする病気ですが、実は判断力や記憶力の低下とも関係がある可能性があるんです。
睡眠の質が悪いとなぜ脳に負担がかかるのか?

睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中に空気の通り道が狭くなり、細いストローのような状態になることで呼吸が止まってしまうことがあります。呼吸が止まると体内の酸素が低下し、脳や体が危険を感じて眠りが浅くなるという機序になっています。自分ではしっかり寝たつもりでも、実は脳が何度も睡眠を中断している状態になっていることがあるのです。
深い睡眠が十分に取れないと、普段の脳の疲労が解消されず、疲れが残っている状態が続きます。その結果として、以下のような症状が現れる場合があります:
- 朝起きてすっきりしない
- 注意力が続かない
- 思考スピードが落ちる
また、低酸素状態も大きな問題です。脳は酸素を大量に必要とする組織であり、夜間に酸素濃度が下がることで脳の働きが鈍くなり、記憶力や判断力の低下につながる可能性があります。
実際、高齢女性を対象に「睡眠呼吸障害」と「認知機能低下」の関係を調べた研究論文があります。この研究では、1時間あたりの無呼吸・低呼吸の指数が15回以上ある場合を「睡眠呼吸障害がある」と定義しています。
研究の結果、以下のような差が生まれていることが明らかになりました:
- 睡眠呼吸障害がある方
軽度の認知障害を発症した割合は44.8%と、高い値を示しました。 - 睡眠呼吸障害がない方
発症割合は31.1%にとどまっています。
このように、睡眠時の呼吸状態と認知機能には、関係があるといえます。
Yaffe K, et al. Sleep-disordered breathing, hypoxia, and risk of mild cognitive impairment and dementia in older women. JAMA. 2011.
睡眠の質の低下によって、判断力や集中力の低下につながります
睡眠時無呼吸症候群による影響は、ただ眠いだけではありません。判断力や集中力の低下も、その症状の一つです。
例えば、以下のような心当たりはありませんか:
- 仕事中になんとなくぼーっとしてしまい、ミスが増えてしまった
- 会議の内容がなかなか頭に入らない
- 最近ミスが多いなと感じる
- 朝から頭が重たく感じて、集中できない
このような症状があると「疲れているから」「年齢のせいかな」と思いがちですが、実は睡眠の質が悪いことに原因がある場合もあります。
特に、以下の症状がある方は、睡眠時無呼吸症候群を疑ってみることも大切です:
(a) 睡眠中の無呼吸
(b) 日中の強い眠気
(c) 朝がだるい、または頭痛がある
睡眠時無呼吸症候群では、眠っている間に呼吸が止まってしまい、酸素濃度が低下します。そのため、脳が覚醒に近い状態にあり続けてしまいます。睡眠時間を十分に取っているつもりでも、実際には脳が休まっていない、ということが起きているのです。
睡眠は記憶の整理にも関係
私たちは眠っている間に、日中に得た情報を整理し、必要な記憶と必要でない記憶を分けて、必要な記憶を定着させています。そのため、睡眠をしっかりとれていないと、新しいことを覚えにくくなったり、思い出せなくなったりすることがあるのです。
睡眠時無呼吸症候群では、睡眠が分断されているため深い睡眠が取れず、記憶の整理がうまくいかなくなる傾向があります。
睡眠時無呼吸症候群と認知判断力の低下は、高齢者だけの問題ではないんです。
記憶力の低下というと、年齢が上がってから発生する問題と思われがちですが、実は睡眠時無呼吸症候群による集中力の低下や判断力の低下は、高齢者だけではなく、バリバリに働いている現役世代の方にも起こることがあります。
40代、50代、60代で仕事のミスが増えた、あるいは会議中に眠くなってしまう。そんな方も、背景に睡眠時無呼吸症候群が隠れているかもしれません。
特になりやすい傾向があるのは、次のような方です:
- 肥満傾向にある方
- 顎が小さい方
- 鼻詰まりがある方
- 飲酒習慣がある方
また、最近ぼーっとする、あるいは判断が遅くなったと感じる場合、その原因はすぐに認知症とは限りません。睡眠の質が悪くなっていることで、脳が十分に回復できていない可能性もあるんですよ。
治療で判断力の改善を期待できる場合があります。

睡眠時無呼吸症候群で判断力や記憶力の低下が起きている場合、治療によって集中力を改善できる可能性があります。
その治療法はCPAP(シーパップ)療法と呼ばれるもので、睡眠中に鼻に装着したマスクから空気を送り込み、喉の空気の通り道が狭くなっている部分を広げる治療です。無呼吸や低呼吸を減らすことで睡眠中の酸素濃度を上げ、日中の眠気や頭の重さを軽減する効果が期待できます。
2022年の研究でも、重症の睡眠時無呼吸症候群の患者さんにおいて、CPAP治療が認知機能の一部を改善する可能性が報告されています。これは、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんに対してCPAP治療を6ヶ月間行い、その後の認知機能や睡眠脳波の変化を評価した実験です。その結果、複数の認知領域で改善が見られ、睡眠脳波の異常も改善する可能性が示唆されました。(D’Rozario AL, et al. Improvements in cognitive function and quantitative sleep electroencephalogram in obstructive sleep apnea after six months of continuous positive airway pressure treatment. Sleep. 2022.)
しかし注意が必要な点として、この治療が長期的に認知症の予防につながるかどうかについては、まださらなる研究が必要な段階とされています。
このような方は、検査を検討してみてください
以下のような症状がある方は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの睡眠障害を抱えている可能性があります。
- 寝ている間に息が止まっていると指摘されたことがある
- 朝起きても疲れが取れない
- 最近、集中力や判断力が低下したと感じる
- 運転中に眠くなることがある
「年齢のせい」や「ただの疲れ」として片付けず、一度ご自身の睡眠状態を検査して確認してみることをお勧めします。
まとめ
記憶力の低下や判断力の低下は、認知症や加齢、過度の疲労だけで起こるものではありません。睡眠の質が悪くなることでも、大きな影響が出ることがあります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、寝ている間に呼吸が止まったり浅くなったりする病気です。これにより夜間の低酸素状態や睡眠の分断が引き起こされます。
最近、以下のような症状を感じている方は、ぜひ一度検査をしてみてください:
- 物忘れが増えた
- 判断力が落ちた
- 朝の身体のだるさがある
- 集中力が低下している
一方で、睡眠時無呼吸症候群があるからといって、必ずしも認知症になるわけではありません。判断力の低下には様々な原因があります。
だからこそ、日中のパフォーマンス低下を感じている方は、睡眠時の無呼吸が隠れていないか一度確認してみてください。
