もの忘れと睡眠時無呼吸症候群の関係|認知症リスクとの関わり

認知症と睡眠時無呼吸症候群

まずは、物忘れがあるからといって、すぐに認知症と決まるわけではありません。睡眠不足、ストレス、うつ状態、薬の影響、脳血管障害など、さまざまな原因で物忘れや集中力低下が起こることがあります。

その中の一つとして、睡眠時無呼吸症候群が関係している場合があります。睡眠時無呼吸症候群は、脳にも影響を及ぼすことがあります。睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に呼吸が止まったり、浅くなったりする状態を指します。日中の眠気の原因として知られていますが、その影響は眠気だけにとどまるわけではありません。

睡眠中に何度も呼吸が乱れることで、脳への酸素供給が減ったり、睡眠の質が低下したりします。これが認知機能に影響を及ぼす可能性が指摘されています。認知機能とは、注意を向ける、物事を判断する、記憶する、段取りを考える、物事を理解するといった脳の働きの総称です。

睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中に低酸素状態や睡眠の分断が繰り返し起こるため、脳が十分に休めない状態に陥りやすいと考えられています。

低酸素、睡眠の分断が脳に負担をかける

睡眠時無呼吸症候群では、呼吸が止まるために血液中の酸素濃度が低下します。体は酸素不足に反応して呼吸を再開させようとしますが、その際に脳が覚醒に近い状態に変わります。

本人は眠っているつもりでも、実際には睡眠が分断されており、深い睡眠が十分に取れていない可能性があります。このような低酸素の状態や睡眠の質の低下は、脳の働きに悪影響を及ぼす可能性があります。

高齢女性を対象としたJAMAの研究では、睡眠呼吸障害がある方では、数年後に軽度認知障害または認知症を発症する割合が高いことが報告されています。具体的には、睡眠呼吸障害のある群では、軽度認知障害または認知症の発症が44.8%で、ない群の31.1%より高かったとされています。
(Yaffe K, et al. Sleep-Disordered Breathing, Hypoxia, and Risk of Mild Cognitive Impairment and Dementia in Older Women. JAMA. 2011.)

睡眠時無呼吸症候群と認知症のリスク

睡眠時無呼吸症候群と認知症の関係については、近年多くの研究が行われています。研究によって対象者の評価方法は異なりますが、睡眠時無呼吸症候群がある方では、認知症や認知機能の低下のリスクが高くなる可能性があるとされています。

また、睡眠時無呼吸症候群とアルツハイマー病に関するバイオマーカーを調べたメタ解析では、睡眠時無呼吸症候群とアルツハイマー病に関する病態との関連が検討されています。

現時点では、睡眠時無呼吸症候群が認知症を直接引き起こすと断定できる段階ではありません。しかし、睡眠中の低酸素状態や睡眠障害が脳の健康に関係している可能性があると考えられており、これは非常に重要な視点です。

物忘れや集中力低下として現れることも

睡眠時無呼吸症候群の脳への影響は、いきなり認知症として現れるとは限りません。

日常生活の中で、以下のような変化として気づかれることもあります。

  • 物忘れが増えた
  • 集中力が続かない
  • 仕事のミスが増えた
  • ぼーっとする時間が増えた
  • 怒りっぽくなった

特に高齢の方は、こうした変化を「年齢のせい」と考えてしまいがちです。しかし、背景に睡眠時無呼吸症候群がある場合、睡眠の質を見直すことで改善できる部分もあるかもしれません。

もちろん、物忘れの原因は睡眠時無呼吸症候群だけではありません。認知症、うつ病、脳血管障害が関係している可能性もあります。そのため、気になる変化がある場合は、睡眠の状態だけではなく、全身の状態を確認することが大切です。

CPAP治療と認知機能について

睡眠時無呼吸症候群の代表的な治療にCPAP療法があります。これは、鼻や口に装着したマスクから空気を送り、のどなどの空気の通り道が狭くなっている部分を広げる治療法です。

CPAP治療により日中の眠気や注意力などの改善が期待される一方で、認知症そのものを改善する治療とまでは言えません。
CPAP治療によって認知機能がどの程度改善するかについては、研究によって結果に差があります。
2020年のメタ解析では、CPAP治療全体としては認知機能への効果は限定的でしたが、重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群では、注意力や情報処理速度に改善が見られたと報告されています。
(Wang ML, et al. Cognitive Effects of Treating Obstructive Sleep Apnea: A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Journal of Alzheimer’s Disease. 2020.)

つまり、CPAPを使えば必ず認知症を防げる、あるいは全て改善するというわけではありません。一方で、睡眠時の低酸素状態や睡眠の分断を減らすことは、日中の眠気や集中力の改善につながる可能性があります。健康を守るために、睡眠時無呼吸症候群を放置しないことが大切です。

まとめ

認知症との関係はまだ研究が続いている分野ですが、睡眠呼吸障害があることで、認知症のリスクが高まる可能性を示した研究もあります。物忘れや集中力低下が気になる方は、年齢のせいだと決めつけず、睡眠の状態を確認することが大切です。