「いびきがひどい」と家族に指摘される、朝起きると頭が重い、どれだけ寝ても日中に眠い。こういった症状の裏には、実は睡眠時無呼吸症候群(SAS)が隠れていることがあります。
その治療の中心となるのが、持続陽圧呼吸療法(CPAP)です。CPAPをご存知の方は、「一晩中ずっと装置をつけていなければいけないから値段が高そう」「経済的に大変なのでは?」というイメージをお持ちかもしれません。
しかし、睡眠時無呼吸症候群に対するCPAP治療は、一定の基準を満たせば健康保険が適用されるため、毎月のご負担は比較的抑えることができます。
この記事では、内科の視点から以下の内容について、最新の診療報酬や医学的な研究に基づきお伝えします。
- 睡眠時無呼吸症候群とはどういう病気なのか
- 検査と治療について
- 治療にかかる費用
- なぜCPAP治療を続けることが大切なのか
睡眠時無呼吸症候群とは?

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に喉の奥が塞がることにより、呼吸が浅くなったり止まったりを繰り返す病気です。大きく分けて、喉が物理的に狭くなって起こる「閉塞性」と、脳からの呼吸の指令がうまく届かない「中枢性」の2種類があります。
患者さんの数として圧倒的に多いのは閉塞性です。呼吸が止まったり浅くなったりすることで、体は酸素が不足した状態になり、その結果、脳は起きた状態(覚醒状態)になります。そのため、本人は睡眠時間が足りているつもりでも、実際には睡眠の質が悪いということが起きるのです。
睡眠の質が悪いと、以下のような症状が起こります。
- 日中の強い眠気
- 起床時の頭痛
- 集中力の低下
この睡眠時無呼吸症候群は珍しい病気ではありません。日本における中等症以上の成人の患者数は、900万人以上に上ると推測されています。しかし、その治療法であるCPAP(シーパップ)療法を受けているのは、わずか60万人程度に留まっています。多くの方が、診断や治療をされていない状態にあるのが現状です。
日本人は欧米人に比べて肥満度は低いですが、顎が小さいなどの構造上の問題から、睡眠時無呼吸を発生しやすいことが知られています。そのため、肥満でないからといって、必ずしも睡眠時無呼吸症候群ではないとは限りません。
重症度は、1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数を示す「無呼吸低呼吸指数(AHI)」によって分類されます。
- 軽症:5以上 15未満
- 中等症:15以上 30未満
- 重症:30以上
朝の頭痛、日中の眠気を放置すると?

睡眠の質が悪いから「眠気ぐらい大丈夫」と考えてしまいがちですが、睡眠時無呼吸症候群を発症している場合、全身に様々な合併症を引き起こします。
最も多い合併症は高血圧です。睡眠時無呼吸症候群を抱えている患者さんの約半分以上が、高血圧を合併しているとされています。
特筆すべきは、高血圧に対する降圧薬を使ってもなかなか血圧が下がらない「治療抵抗性高血圧症」になっているケースも多い点です。これは、夜中に何度も酸素濃度が低い状態になったり、脳が覚醒状態になって目が覚めてしまったりすることで、交感神経が過剰に働いてしまうことが原因です。
その結果、体の中で血圧が上がりやすい状態が出来上がってしまいます。
さらに脂質異常症、糖尿病、心筋梗塞など、多くの病気の原因になっています。
睡眠の質が悪いことで、血糖を下げるインスリンの効果が悪くなったり、心臓に負担がかかることによって脈が通常通り打てない不整脈を引き起こしたりするためです。
だからこそ内科では、単にいびきを治すということだけではなく、生活習慣病や血管疾患を治療・予防するという観点からも、睡眠時無呼吸症候群の検査と治療を重視しています。
さらに日中の強い眠気によって、労働災害や交通事故を起こしやすいことも分かっています。
自分的には「少し眠いだけ」と思っていても、判断力や反応速度の低下が確実に起きているので、重大な事故につながることもあるんです。
ご自身や周りの方のためにも、眠い状態を放置せず、睡眠時無呼吸症候群があるかないかを一度チェックすることはとても大切です。
2005年の研究で、睡眠時無呼吸症候群を放置するとどうなるかを調べたものがあります。
この研究によると、重症の睡眠時無呼吸症候群を治療しなかった方は、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる疾患の発症率が高いことが分かりました。
一方で、CPAP治療を受けている群では、そうした心血管イベントの発症リスクを抑えることができ、健康な人に近い水準までリスクを低減できていました。
(Marin JM, Carrizo SJ, Vicente E, Agusti AG. Long-term cardiovascular outcomes in men with obstructive sleep apnoea-hypopnoea with or without treatment with continuous positive airway pressure: an observational study. Lancet. 2005;365(9465):1046-1053.)
また、アメリカ心臓協会の声明では、16個の研究を統合して解析した結果によると、重症の睡眠時無呼吸(すなわちAHIが30以上)の方は、全死亡および心血管死亡の増加と関わりがあることが報告されています。(Yeghiazarians Y, et al. Obstructive Sleep Apnea and Cardiovascular Disease: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2021;144(3):e56-e67.)
CPAP(シーパップ)は、鼻や口に装着したマスクから空気の圧力をかけて、持続的に空気を送り込む装置です。この空気圧によって、睡眠中に塞がりやすい気道を内側から押し広げ、無呼吸や低呼吸による低酸素状態を防ぎます。
この治療の効果は非常に高く、比較的すぐに効果を実感しやすいのが特徴です。うまく使いこなせるようになれば、「翌朝すっきりと起きられた」「頭痛がなくなった」と実感される方も少なくありません。
ただし、覚えておいていただきたい点がいくつかあります。
- 治療の目的
(a) CPAP治療は、睡眠時無呼吸症候群そのものを根本的に治すわけではありません。
(b) あくまで装置を使うことで、その一晩の睡眠の質を改善する治療です。 - 継続の重要性
(a) 普段から治療を行っている方でも、装置を使わずに寝た日は効果が元に戻ってしまいます。
(b) 使わないことで状態が悪化することもあるため、毎日継続することがとても大切です。
なお、CPAP装置は患者さんが個人で購入するものではなく、医療機関やクリニックからレンタルするという形式をとっています。そのため、高額な機器を購入する必要がなく、故障や不備があった際もすぐに交換できる体制が整えられています。
検査の流れ

CPAPを開始するかどうかは、まず検査で睡眠時無呼吸症候群があるかないか、および重症度を判断する必要があります。
検査は2つあります。この検査は、2つともご自宅で一晩行っていただく検査になります。
1つ目は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の簡易検査です。
鼻や指にセンサーをつけて一晩寝ていただき、おおよその無呼吸の回数や血液中の酸素の状態を確認します。つける部品も少ないため、最初のスクリーニング検査として行われます。
2つ目に精密検査、睡眠ポリグラフ(PSG)検査です。
脳波、心電図、呼吸、体の動き、酸素飽和濃度などを総合的に計測することによって、睡眠の状態をより詳しく見る検査になります。
従来は入院して行うことが多かったですが、現在は外来で検査機器を貸し出し、ご自宅で受けていただくことが可能です。
この2つの検査は基準値が異なります。
- 簡易検査:AHIが40以上
- 精密検査:AHIが20以上
上記の数値でCPAPの保険適用となります。
簡易検査だけでは正確な数値が出ないこともあるため、精密検査の結果を合わせて最終的な治療方針を決めることがあります。
2026年6月から基準が緩和
先ほどの説明では、簡易検査でAHIが40以上、精密検査でAHIが20以上というのがCPAP適用の基準でしたが、2026年6月の診療報酬改定により、CPAP導入の要件が緩和されました。
現在の新しい基準は以下の通りです:
- 簡易検査:AHIが30回以上
- 精密検査:AHIが15回以上
上記のいずれかの呼吸状態が確認されれば、保険適用でCPAP治療を開始できるようになりました。
これまでは「あと少し数値が足りなくて保険適用にならなかった」という方も、今回の改定によって保険診療で治療を受けられるケースがかなり増えています。以前の検査では適用外だったという方も、ぜひ一度相談してみてください。
毎月かかる費用は?
皆さんが最も気になっている、実際にかかる費用についてお話しします。
CPAPは長期的に継続する治療ですので、毎月いくらかかるかというのは非常に大切な判断材料になります。CPAP治療にかかる費用は、主に2つの保険点数で構成されています。
- 在宅持続陽圧呼吸療法用治療器加算
- 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料
これらに加えて、毎月の再診料(診察料)などが加算されます。これらを合計し合わせたものが、患者さんに支払っていただく金額になります。
具体的には、診察料も含めた1ヶ月の総額は以下の通りです。
(a) 3割負担の方:およそ5,000円程度
(b) 1割負担の方:およそ2,000円程度
つまり、毎月の通院で支払う金額は、外食3、4回分というイメージでしょうか。装置を自費で購入する場合は十数万円程度かかりますので、保険診療で受けることによってご自身の負担を抑えつつ、CPAP治療を継続することが可能です。
通院は原則として、月に1回必要です。
CPAP(シーパップ)治療法で治療を続けるための原則として、月1回の通院が必要です。
この月1回の通院の際に、CPAPの費用(いわゆるCPAPのレンタル料)を払っていただくような形になります。
受診の際には、医師が以下のデータを確認します:
- 使用している時間
- AHI(無呼吸低呼吸指数)
- 無呼吸の状態などが改善されているか
また、その際にCPAP治療を続けていて、何か不安なことや不明な点がある場合は、併せてご相談いただけます。当院では、最初は月に1回の受診でも、安定して管理されている状態になった方には、2ヶ月に1回の受診でも可能とお話をしています。
お忙しくてなかなか毎月来られないという方は2ヶ月に1回にしていたり、患者さんによって適宜、臨機応変にご相談をしております。何か不明な点がある方は、一度ご相談ください。
CPAP以外の治療法と費用
睡眠時無呼吸症候群の治療は、重症の方にはCPAP(シーパップ)治療をお勧めしますが、軽症の方にはCPAPではなく、別の治療法をご提案しています。
軽症や中等症で自覚症状がある場合は、マウスピースをお勧めすることがあります。これは下の顎を少し前に出すような状態で寝ていただくことで、気道を確保する治療法です。
このマウスピースの作製については、以下の手順で進めます:
- まず、睡眠時無呼吸症候群の検査を行います。
- 検査の結果、軽症と判断された場合は、当クリニックから歯科医院への診療情報提供書(紹介状)を作成します。
- その紹介状を歯科へお持ちいただくことで、保険適用にてマウスピースを作製していただけます。
マウスピースは持ち運びもしやすく電源も不要ですが、重症例ではCPAPほどの効果は期待できないという点は、あらかじめ承知しておいてください。
また、扁桃が大きい、鼻の構造的な問題がある場合には、手術というのも選択肢の一つになります。
すべての患者さんにまずやっていただきたいことは、禁酒、節酒、減量などの生活習慣の改善です。特に肥満を伴っている睡眠時無呼吸症候群の方では、減量とCPAPを併用することで、CPAP単体よりも大きな血圧改善が得られるということが分かっています。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療と費用について、詳しくご説明しました。
睡眠時無呼吸症候群は、中等症以上だけでも国内に90万人以上の患者がいると言われている疾患ですが、実際に治療を受けている方はそのごく一部に過ぎません。「自分は違うだろう」と考えるのではなく、非常にありふれた病気ですので、気になる症状がある方はまず一度検査をしてみましょう。
日中の強い眠気やいびきを放置しておくと、生活習慣病、心筋梗塞、脳梗塞のリスクが高まるだけでなく、交通事故を起こす危険性も増してしまいます。
費用面についてですが、CPAP(シーパップ)治療は、3割負担の方であれば毎月5,000円程度で装置のレンタルが可能です。装置を自費で購入する必要はなく、思っていたよりも負担が軽いと感じる方も多いのではないでしょうか。
そして、最も大切なのは治療を継続することです。CPAPの効果は使用時間に比例することが分かっており、毎晩しっかり使うことで血圧の改善や心血管疾患リスクの軽減が得られます。
- 自分は保険の対象になるのか
- 費用は具体的にどれくらいかかるのか
- マウスピースとどちらがいいのか
このような小さな疑問でも構いませんので、まずは当院にご相談ください。
当院は三鷹、調布、狛江、世田谷エリアからのアクセスも良好で、非常に多くの患者様にご来院いただいております。気になった方は、ぜひ一度お立ち寄りください。


