「診察室では正常」でも油断は禁物 ―― 家庭血圧と“かくれ高血圧”


「病院で測ると血圧は正常なので、自分は高血圧ではない」――そう思っている方は少なくありません。ところが、診察室でははかった血圧が正常でも、家庭ではかると高い、という方が一定数いらっしゃいます。これは「仮面高血圧(かくれ高血圧)」と呼ばれ、気づかないうちに心臓や血管に負担をかけている、注意すべき状態です。高血圧は「サイレントキラー(静かなる殺し屋)」とも呼ばれ、自覚症状がないまま進行し、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞を引き起こすことがあります。だからこそ、症状に頼るのではなく、ふだんの血圧を数字で把握しておくことが何より大切です。今回は、なぜ家庭での血圧測定が大切なのか、そして診察室だけでは見逃されやすい高血圧のタイプについて、分かりやすく解説します。
診察室の血圧と家庭の血圧は違う
血圧は、はかる場所や状況によって変わります。実は、高血圧と判定する基準値も、診察室と家庭とで異なります。診察室では140/90mmHg以上が高血圧とされますが、家庭ではそれより低い135/85mmHg以上が高血圧の目安です。これは、家庭のほうがリラックスした状態ではかれるため、基準もそれに合わせて設定されているからです。
診察室での測定は、一度きりのその場の値にすぎません。一方、家庭血圧は、毎日の生活の中での「ふだんの血圧」を映し出します。実際、複数の研究で、家庭ではかった血圧のほうが、診察室の血圧よりも将来の脳卒中や心臓病をよく予測することが示されています。日本の代表的な研究である大迫(おおはさま)研究でも、家庭血圧のほうが予後をよく反映することが報告されています。
血圧には4つのタイプがある


診察室血圧と家庭血圧を組み合わせると、血圧の状態は大きく4つのタイプに分けられます。
一つ目は、どちらも正常な「正常血圧」。二つ目は、どちらも高い「持続性高血圧」で、治療が必要な状態です。三つ目は、診察室では高いのに家庭では正常な「白衣高血圧」。病院という緊張する場面でだけ血圧が上がるタイプです。そして四つ目が、診察室では正常なのに家庭では高い「仮面高血圧」です。健診や診察では見つからないため、まさに“かくれ”ている高血圧といえます。
見逃してはいけない「仮面高血圧」


この4つの中でとくに注意が必要なのが、仮面高血圧です。診察室では正常のため、放置されやすいにもかかわらず、その心血管リスクは決して低くありません。大迫研究では、仮面高血圧の人は、血圧がずっと正常な人に比べて、心血管による死亡や脳卒中のリスクがおよそ2.13倍にのぼることが示されました。これは、持続性高血圧に近いほどのリスクです。診察室の数値だけで安心してしまうと、この危険な状態を見逃してしまうのです。
仮面高血圧は、早朝に血圧が上がる人、喫煙や飲酒の習慣がある人、ストレスの多い人、すでに治療を受けているのに家庭血圧が下がりきっていない人などで多いとされます。
一方、白衣高血圧は、診察室でだけ高くなるタイプで、大迫研究では、ずっと正常な人と比べて明らかにリスクが高いとまではいえないと報告されています。ただし、将来的に本当の高血圧へ移行しやすいことも知られており、油断せず経過をみていくことが大切です。
とくに「早朝高血圧」に注意
仮面高血圧の中でも、朝に血圧が高くなる「早朝高血圧」はとくに見逃せません。血圧には一日の中でのリズムがあり、多くの人は起床前後から上昇します。もともと脳卒中や心筋梗塞は早朝から午前中にかけて起こりやすいことが知られていますが、この時間帯に血圧が急に高くなる人では、そのリスクがさらに高まると考えられています。日中に病院で測ったときには落ち着いていても、朝の血圧が高いままになっている――こうした状態は、家庭で朝の血圧をはからなければ気づくことができません。朝の血圧を知ることは、早朝高血圧というかくれたリスクを見つけるうえで、とても大切なのです。
家庭血圧の正しいはかり方


こうしたタイプを見分け、ふだんの血圧を正しく知るために、家庭での血圧測定がとても役立ちます。はかり方にはいくつかのポイントがあります。
まず、朝と夜の1日2回はかるのが基本です。朝は起きて1時間以内、トイレをすませたあと、お薬を飲む前・朝食の前に測ります。夜は就寝前がよいでしょう。測定するときは、背もたれのある椅子に座って1〜2分ほど安静にしてから、腕を心臓の高さに保ってはかります。上腕ではかるタイプの血圧計をおすすめします。毎回1〜2回測定し、その値を記録しておきましょう。一喜一憂せず、数日から1週間の平均でみることが大切です。
はかる前には、いくつか避けたいことがあります。直前の喫煙やコーヒー、入浴、運動は血圧を一時的に変動させるため、これらの直後は避けましょう。会話をしながら、あるいは足を組んだ姿勢ではかると正しく測れません。また、寒い部屋では血圧が上がりやすいため、室温にも気を配ると安定した値がとれます。うまく測れない日があっても、神経質になりすぎる必要はありません。大切なのは、完璧に測ることよりも、無理なく続けて日々の傾向をつかむことです。血圧計は、できれば毎年ご自身のものが正しく作動しているか、診察のときに確認できると安心です。
こうして記録した家庭血圧は、診療の場でとても貴重な情報になります。お薬の効き具合の確認や、治療方針を決めるうえで、その場の一度の測定よりもはるかに役立ちます。血圧が高い日が続いたのか、それとも一時的なものだったのかも、記録があれば一目で分かります。
気になる方はご相談を
家庭血圧をはかってみて、135/85mmHgを超える日が続く方、診察室では正常でも家庭では高いと感じる方は、一度ご相談ください。当院では、患者さんが記録された家庭血圧の手帳やメモをもとに、その方にとって本当に必要な対応を一緒に考えていきます。診察室の一瞬の数値だけにとらわれず、ふだんの血圧に目を向けることが、脳卒中や心筋梗塞を防ぐ確かな一歩になります。まずは、ご家庭で血圧をはかる習慣から始めてみましょう。
執筆者
つつじヶ丘駅前内科クリニック 院長
医学博士 腎臓専門医 透析専門医 内科認定医 産業医
小出高彰
参考文献
- Ohkubo T, Imai Y, Tsuji I, et al. Home blood pressure measurement has a stronger predictive power for mortality than does screening blood pressure measurement: a population-based observation in Ohasama, Japan. Journal of Hypertension. 1998;16(7):971–975.
- Ohkubo T, Kikuya M, Metoki H, et al. Prognosis of “Masked” Hypertension and “White-Coat” Hypertension Detected by 24-h Ambulatory Blood Pressure Monitoring: 10-Year Follow-Up From the Ohasama Study. Journal of the American College of Cardiology. 2005;46(3):508–515.
